人妻の影

当時働いていたパートの仕事を辞めることになり、働かなければと焦りを感じながらツーショット・伝言の仕事をしていたあの頃。ツーショットで30歳のひとと繋がった。

「もしもし?歳いくつなの?俺は30なんだけど」
一瞬答えに詰まった。若く聞こえる声ゆえ、嘘をつこうか正直に言うか迷った。
「…35よ」
正直に答えた。不審に思われてガチャ切りは嫌だ。
「今答えるの遅かった。サクラだろ!」

「なんでそうなるのよ!サクラなわけないでしょ!」
「サクラじゃないなら、家に電話してこいよ!」
「いいわよ!何番なの?」
――売り言葉に買い言葉、聞いた番号を書きとめていた。

「本当にかけてくれたんだ。サクラじゃなかったんだ、ごめんね」
意外にも話は弾み、1時間の会話を経てその日のうちに会う約束までしてしまった。近所まで迎えに来てくれ、そのままドライブ、そのひとの家に行くことに。

そこで見せられたものは、付き合ってたという人妻との絡みのビデオ。スリムで年齢のわりには若く、綺麗なひとだった。
とても幸せそうで、初めて会った私にどうしてこれを見せたいのか、不思議でそして哀しかった。
それでも付き合いは始まり、仕事の合間や帰宅後に電話で話すようになった。営業マンである彼は、近所を回ることもあった。ペイントされたサービスカーを見かけるたびに、あのひとかしらとドキドキした。こっそり仕事中に会ったことも、数回あった。
制服姿がカッコよくて、惚れ直してしまった。

趣味で休日にスポーツをしていると知り、会うたびに時間があると彼の身体をマッサージすることにした。私にできることをしたい。
「瑞穂みたいな嫁さんがいたらなぁ。昼も夜も俺を喜ばせてくれる、そんな嫁さんがいたら最高」
うとうと眠りながらそんなことを言う、彼を見ている至福のとき。彼のやすらぎになれることが嬉しかった。言葉の矛盾に気づいてはいても。

でも不安は常につきまとった。

ある日、彼が乱交パーティーに行きたがってることを知った。参加しないか?と誘われた。
彼が私の目の前で違う女性を抱くのを見るのは絶対嫌。断固として断った。そんな折、数日実家に帰るからと聞かされた。
ほんとに実家なの?と心配になりながらも、黙って待つしかなかった。

「○○って病気知ってる?前いた、うちの会社の事務員がこの病気らしいんだけど、感染するって聞いて…」
不安そうに聞いてきた彼。偶然知っていた私は、感染経路について説明したけれど、話を聞いていると「前いた事務員」はあのビデオの人妻ではないかと思い当たった。
ご主人の転勤で別れざるを得なかったというけれど、ひさしぶりに会ったのかもしれない。疑念が渦巻く。

どうしてもちらつく人妻の影。ダメだった。
その直後に些細なことで喧嘩になり、私は連絡を取るのをやめた。あのひとを好きでも、あの記憶に残る場面は鮮明に浮かぶ。
あのひとの心に、私ではなくて彼女がいる。

数ヵ月後、偶然にも再会してしまった。営業マンと客として。
だけど、元に戻ることはなかった。
もしかしたら戻りたかったかもしれない、だけど戻らなくてよかった。あの時誰にも邪魔させない空間を見せられたようで。
私はあの人妻のようにはなれなかった。


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